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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)111号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人松尾黄楊夫の上告理由について。

原判決は、本件各登記は、そのなされた当時すでに登記名義人たる林篤は死亡していたのであるから、かりに訴外松村浦吉が、林篤の生前同人から本件各登記につき代理権を与えられていたとしても、その代理権は本人の死亡によつて消滅したものと解すべきであるから、登記法の定める形式的要件を欠く不適法の申請に基くものであり、本件各土地につき被控訴人等(上告人等)の主張するような実体上の権利変動の事実があるからといつて登記における形式上の欠缺を不問にすることはできないのであつて、林篤の一般承継人たる控訴人等(被上告人等)は、被控訴人等(上告人等)が本件各土地につき所有権を取得していたかどうかに関係なく被控訴人等(上告人等)に対し本件各登記の抹消登記手続を請求し得べきものとし、被上告人等の本訴請求を認容している。

しかし、本件各登記は、原判示のとおり登記法の定めるところに適合しない申請手続によつてなされたものではあるが、登記手続の瑕疵の態様如何にかかわりなく直ちに無効ということはできないのであつて、その対抗力の有無については、登記によつて公示せられるところが現在の真実な権利状態に符合するものであるかどうかによつて決すべきものとするを相当とする。ところで原判決は、右実体的な権利関係につき確定するところがないけれども、第一審判決の認定したところによれば、本件各土地は、上告人等が林篤の生前同人より譲り受けてそれぞれ所有権を取得したというのであつて、果してそうだとすると、本件各登記は、訴外松村が林篤の死亡後同人の代理人として手続したものであり、その手続に瑕疵ある登記ではあるが、右本人の意思に基いて有効に成立した本件各土地に関する現在の真実な権利状態に符合し対抗力をもつ場合に該当するものとなり、もはや被上告人等には、上告人等に対して本件各登記の抹消を請求し得ないこととならざるをえないのである。それ故、原判決は、右の点において法律の解釈を誤つた違法があり、論旨は理由があるものというべく、原判決は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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